epilogue
 
 

 三月の半ば、日曜日、午後二時。
 通学路にある海の色と、薄汚れた堤防とか、砂浜の色なんかは一年じゅう変わらないけれど、ほとんど白色に近いようなピンク色は、この季節だけのものだ。
 去年とおんなじに、卒業式には満開まで咲ききらなかった桜だけど、そのことを思い出すにはじゅうぶんだった。
 制服の胸元に花の飾りをつけられて過ごしたのは昨日のことだ。今日は、俺たちはさっきまでこの近くで遊んでいて、散歩したい、なんてその人が珍しく言い出したから、こうやってこの辺を歩いているだけ。
 海のほうから風が吹きつけると、桜の花が揺れた。花びらが何枚か流れ落ちて、地面の上へと居場所を変える。それを目線で追ったあと、顔をあげたら、丸井先輩は俺のことを見ていた。
 横に広がる海の色は、花びらのそれよりもずっとしっかりした色合いで、美術の授業で使う絵の具みたいに鮮やかな、でも、青と緑が混ざったような、曖昧な色。
 そういう、一年じゅう見慣れた色と、春だけの白色のなかで、先輩が笑った。
 もういちど潮風が吹いて、花びらと一緒にひらひら揺れたその人の髪も、俺の、同じだけ見慣れた色だ。