「eye」/「アイ・ノウ・ユー」について
  
 
 時系列的には、いったん最終回のつもりで書きました。長い作品を大事に読んでくださった方々、ほんとうにありがとうございます。
 まるっきりはそれぞれの性格や生き様からして(少なくともいちどは)別れる、というのは、最初に自分のまるっきりを書き始めたときから、ずっとわたしのなかにありました。 
 いちど離れたあとのふたりがどうなるのかはまだわからず、いつか自分なりの答えを出せたらな〜と思っています。もちろん一生一緒にいてくれやという思いはあるのでファンとしては復縁してほしいですが、そばにいてハグやキスすることだけが愛ではない、そして恋人関係であることだけが愛ではない、なので……またひとり悶々と考えてみます。 
  
 また、お話の内容について。今回のもの含めて、すべて一人称で進んでいるので、地の文は事実そのままというよりも主人公のとった解釈で語られています。なので、主人公が相手の表情や言動をその意図と裏腹に解釈したことも、なにより主人公が自分自身のことを正しく把握しきれていないことも、そのまま地の文になっています。 
 そのひとつとして、「アイ・ノウ・ユー」で丸井くんは自分と赤也の恋人としての交際について、意味がない、高め合ったりなんてしていないと思っている描写がありますが、お互いがお互いの良い影響を受けている描写もこっそり入れています。(そんな風に彼らが生きてる上で誰かから受ける影響というものが好きなので小ネタも入れてます。「eye」で丸井くんがひとりで借りてきたDVDのなかには、彼の趣味っぽいアクション映画やエンタメ邦画のほかに、丸井くんにとってはジャッカルや幸村くんの好きな「むずかしそうな洋画」もあったりします。丸井くんは陽キャなのでエンタメ好きですが、感性豊かな職人でもあるので、ふれる機会さえあればアートな作品も好きになりそうだと思いました。) 
  
 そして、丸井くんの夢について。 
 赤也はなによりもテニスを続けることを選ぶ人であるというのは、2017年にプロットを書いたときからずっと変わっていないのですが、2021年に読んだSTRENGTHの情報や丸井くんの新テニスでの最後の試合で、自分のなかの丸井くんの進路は大幅変更され、それにより、ふたりのやりとりもすっかり変わりました。 
 ケーキ実績のすさまじい丸井くんが将来ケーキ系の進路を選ぶことは二次創作でも定番だったし、そういう作品を拝見しすてき! と思いつつも、個人的な解釈では丸井くんは料理を仕事にはしないのだと思っていました。 
 丸井くんのおかし作りがあれだけすごいのは、身近な誰かにごちそうしてあげたいというやさしさと、そして器用で凝り性な職人肌ゆえに、数をこなすうちに色々レベルアップしちゃった〜程度だと思っていたのです。 
 中三時のパティシエ講座留学のくだりについても、自分の実力がどんなものか試したかったから試験を受けてみた程度に思ってました。 
 だから、海原祭の料理大会にてケーキで優勝してるうちはその解釈は変わらずだったのですが、STRENGTHで中三の丸井くんがねりきりで大会優勝してることが発覚。 
 なんだかこのねりきり情報で大騒ぎしてるオタク、わたしだけっぽくて恥ずかしいのですが、でもこれは個人的には事件だったのです。だって家で「兄ちゃんねりきり作ってよー」とかたぶんないと思います。ねりきり作りに凝るということはケーキ作りとちがって、家族とか友達とか、みんなと楽しく食べることをもはや飛び越えて、「素晴らしい作品を作ること」そのものに熱が生まれていると思うのです。 
  
 そう思って考え直してみると、自分の実力を試したいだけなら料理大会出場だけでいいのに、留学実力考査をわざわざ受験したのは、ふつうにその道に興味があったからに決まっているのだと、今になってやっと当たり前の解釈ができるようになりました。 
 ふつうに考えたらそうなのに、なぜわたしはこれまで丸井くんにそんな夢はないだろうと勝手に思い込んでいたのか考えてみれば、彼に「こうなりたい!」みたいに子どもらしく夢をみるイメージがなかったのかも……と今になって思います。 
 ぼろぼろに負かされたあとでも三強に勝ちたいと言う赤也、三強と戦えただけで幸せだと笑う丸井くん。無理なところに手を伸ばすイメージのなかった丸井くんでしたが、きっとほんとうは全然そんなことはなくて、最後の試合でえがかれたように、丸井くんは等身大に弱くてだからこそ強かったです。 
  
 テニス部を引退した丸井くんが、赤也にテニスのことを応援する言葉をかけて、赤也がそれに違和感を持つというのは彼らが中学生のころを描いた「海岸通り」から描写していたのですが、「アイ・ノウ・ユー」では赤也がはじめてその違和感を持たなくなります。 
 それは丸井くんがそうやって、赤也にとってのテニスと同じものをみつけたからです。赤也にとって、自分の夢をみつけた丸井くんは、もうフェンスの外の遠い存在ではなく、隣のコートでべつの試合をしているあの頃の丸井先輩と似ているのです。 
 ふたりがこれからどういう関係であろうと、お互いの夢を(なかなか言葉にはせずとも)当たり前に心から応援し合う関係であるということは、ありふれたようで、なににも代えがたい愛のかたちだと思います。 
  
 もうちょっと、このシーンがこうでああでとか、(未来の自分のために)込めたものを記しておきたいような気もしますが、非常に野暮な気がするのでこのへんでやめておきます。
 最後に、作品やこの解説まで読んでくださった皆さま、感想をくださった皆さま、本当にありがとうございました。