アイ・ラヴ・ユー
 
 
 最近、吐く息が白くなった。
 午後六時過ぎ、部活終わりの時間だと、空の色や帰り道の景色は、近頃すっかり夜の色をしている。
 「なんかもう最近、暗いっスよね」、「もう冬って感じだなぁ」、と、俺たちなりの季節の会話もあった。
 いちどこうやって冬らしくなってしまうと、秋になってもしばらく残っていたはずの、夏の残りのような気温のことを、もう来年まで思い出せないのは毎年のことだ。
 早々に日の暮れた、電灯と店の光頼りの帰り道を並んで歩く。俺も、赤也も、手袋はしない主義で、両手をポケットにつっこんでいる。これもたぶん、毎年のことだった。
 これまでの季節より、ほんのちょっとだけ速めに歩いて、いつも通りの寄り道先のコンビニに辿り着いた。自動ドアが開いた瞬間のあったかい空気に癒されながら、本日の買い食いのメニューを見繕いに店内をうろつく。買うつもりもないけれど、なんとなくアイスのコーナーの前に立ち止まり、ラインナップを見るだけ見てみたりもする。そんな俺の後ろ姿を見つけたらしい赤也は近くに寄ってきて、「げ、アイス食べんの?」と眉をひそめた。もともと食う気はなかったけど、なんとなくその反応にムカついたから、「悪ぃかよ」と返してみた。
 結局、やっぱりアイスは買わずに、この季節の定番の肉まんを買ってコンビニから出た。レジの列で俺の後ろに並んでいた赤也も、いつものホットスナックの袋を持って、店から出た瞬間の冷えた空気に身震いしながら、こっちに歩み寄ってきた。
 まだぎりぎり十一月なのに寒すぎだと赤也は言った。
 俺は、ほかほかの肉まんに噛みつきながら相槌を打つ。
 肉まんがうまいのはいいけど、たしかに寒すぎ、去年もこんなだったっけ。そう思いながらなんとなく、進む道の先の空の、上のほうに目を向けた。しばらくの季節のあいだ、いつも淡い色合いのなかで曖昧な色をしていた月も、今は暗い色をバックに、はっきりとした輪郭のついた、存在感のある白色をしていた。きれいな満月だった。
「うわ。今日の月、まるっ」
 俺につられて見上げたのか、ただ目に入ったのか、横で赤也がそう言った。
 俺はそれにも咀嚼しながら頷いて、赤也はそんな俺を風情がないと笑った。まる、としか感想の言えない奴には言われたくない。
 肉まんを持っていないほうの手で癖っ毛の頭をはたくと、べつに痛くないくせに、赤也は不満げに文句を垂れる。しょうがないから、はたいた場所を無造作にでも撫でなおしておいた。