草試合後について
  
  
 個人的に、原作の好きなシーンベスト3入りする場面について語ります。ずばり、赤也vs越前の草試合後の、赤也の「負けちまいました」のくだりです。
 赤也が越前に草試合で負けた後、コートの端で、半笑いのまま無言で突っ立ってる描写。半笑いタイム、じつにたっぷり3ページ(赤也の顔の見えないページもあるのでほんとはもっと長いかも)。
 草試合が終わって、駆けつけた先輩たちがコートに入ってきて、丸井くんが「オイオイ赤也…何てことを!?」って名指しで大きい声で言ったり、ジャッカルが鉄拳制裁受けてたり、いろんなことがごちゃごちゃ起きてるのに、その場からいちども振り返ることなく、ずっと立ち尽くしてて、それで口元だけ笑ってる。
 勝つしかありえなかった他校の一年生との草試合で、自分のテニスの限界を知るような思いをした。見つけた限界は越えられなくて、そのまま負けてしまって、試合後も動けずにその場で立ち尽くしてしまうくらいに、事実を消化しきれないレベルの衝撃を受けている。
 でも、そのことをちゃんと自分は理解できていますよって自分自身に言い聞かせるみたいな、べつになんともないみたいな、試合前や試合中の強気な自分の姿の延長でいるために、無意識にそういう風な思いで口元だけは笑ってて、でも真田に名前を怒鳴られたときには、もう笑ってなくて、だってほんとはこんな事実、全然笑えなくて。
 入学してすぐ三強にこてんぱんにされたとき、赤也は素直に悔しさで泣くことができた。でも、その三強にももう負けないつもりだった自分が、全国最強じゃない他校チームの、しかも一年生に負けてしまった。そのありえない事実を簡単に受け入れられないぶん、涙は出てこなかったのかもしれない。
 でも、そうやって現実逃避みたいに笑いを浮かべた赤也だけど、もちろん本当は誰よりも、その草試合が見つめるべき現実であることをわかってる。
 だから、決勝が始まって、S3で柳さんが負けたとき、あの対応だったんだと思う。自分にとっての最強である三強のひとり、柳さんの負けた姿を見たことで、少なからず動揺はしただろうに、でもショックを受けることはなく、「自分が勝てば立海の勝利に変わりはない」ってすぐに気持ちを切り替えられたのは、越前に草試合で負けたことで、さらに強くなったからだと思う。どんな勝負にも勝ちと負けがあることを知って、また心が強くなったんだと思う。赤也のこういう強さ、ほんとにかっこいいです。王子様たちは人それぞれの強さがあって、全員人生の師匠にしたいし応援し続けたいですね。つい重い愛を持ってしまいます。